悪女とスリルジャンキー
【68話】
俺は、意外と字がうまい。
それは、小学時代に書道を習っていたからだ。
さぼりながらも、二段を取得した。
・・・
小学時代にもあったが、中学でも書道コンクールがある。
コンクールと言っても、生徒全員が強制参加する行事だ。
中学生になってから、俺はわりと真面目に授業を受けている。
もちろん、書道も真剣に書いた!
・・・
ある朝、教室に入ると、人だかりがある。
ナオエ「108くん、こっちに来て!」
スケバンのナオエが、手招きをする。
壁には、クラス全員の書道紙が貼られてる。
俺の書道紙には、金の紙が貼られてる。
おぉ、金賞じゃん!!
・・・
ナオエ「108くんが、金賞なはずがない!書き写したでしょ!」
俺「はぁ!?みんなで一緒に書いたのに写せるわけないだろ!」
ナオエ「じゃあ、見本と重ねてみようか」
取り巻き「怪しいよね。書き写したよね。ズルはいけないよね~」
ナオエの取り巻き連中が、俺を責め立てる。
・・・
俺「まぁ、いいよ。好きにしろよ!」
ナオエは、見本と俺の書道紙を重ねた。
ミキ「あれ?合わないね」
そもそも、字の大きさが違うし、重ねるまでもない。
俺「おまえは、何がしたいの?」
・・・
ナオエ「ミキ、行こう!」
ナオエたちは、教室を出て行った。
俺「一言謝れよ!バカヤロー!」
俺の金賞に水を差しやがって。
ナオエは、学年一の悪女だ!
・・・
ナオエは、ちょっかいを出してくるのは、今回だけじゃない。
休み時間、俺の所にやって来て暴言をはく事がある。
「108くんって、顔が長いよね!」
「108くんって、鼻の穴が大きいよね!」
女子に身体的なことを言われるのは、本気で傷つく。
・・・
性格の悪い野郎は、今までにたくさん見てきた。
しかし、悪女と関わったのは、初めてだ。
ナオエは、俺が嫌いになった初めての女子になった。
・・・
今日は、学校も部活の休みだ!
俺は、ケンジとパチオと河原に遊びに行った。
岩山から川にダイブしたり、泳いだりして遊んだ。
その帰り道、6階建ての廃墟のビルを見つけた。
俺たちは、中階段から屋上に上がった。
屋上から下を見下ろす。
ケンジ「ここから飛び降りたら、たぶん死ぬな!?」
パチオ「俺だったら、うまく着地できるね!」
この頃の俺たちは、スリルジャンキーだった。
・・・
学校の屋上の柵にぶら下がって、何秒たえられるかを競ったり。
限界がきたら、二人に助けてもらう。
落下防止ロープを巻かないで、屋上の笠木の上をウォーキングしたり。
そもそも、屋上にロープがない。
・・・
ケンジ「おい!ロープがあるぞ!」
廃墟ビルの屋上の隅にロープが丸めて置いてある。
俺たちは、ロープを伸ばしてみる。
俺「20mはあるぞ!このロープで、ここから下りようぜ!」
もちろん、二人は大賛成!
俺「じゃんけんで勝ったやつがロープを掴んで下りる。負けた二人はロープを支えるでどう?」
二人とも賛成した。
「最初はグー。ジャンケンポン!」
俺が勝った!
ケンジとパチオがロープを支える。
「おい!おまえら、絶対に離すなよ!離したら死ぬからな。気合で支えろよ!」
言い出しっぺは、俺だけど、いざロープを持ち、下をのぞいたら恐怖がこみ上げる。
・・・
パチオ「108、ビビってるの!?俺が変わろうか?」
俺は、ロープをしっかり持ち、屋上から下り始めた。
これが、意外とキツイ。
片手を離した瞬間、片手でぶら下がることになる。
手が滑ったら、人生が終わる。
俺は、慎重に少しずつ下りた。
3mくらい下りたころで、腕がパンパンになった。
下を見ると、まだまだ高い。
「おい!腕がパンパンだから、おまえらがロープを下ろしてくれ!」
ケンジ「わかった。ゆっくり下ろすから、108も絶対に離すなよ!」
焦ってる俺を見て、ケンジも焦っている。
パチオ「108、根性入れろよ!」
どんな時も動じないのが、パチオだ。
俺は、両手でロープをしっかり握り、両足もロープに絡ませる。
そして、少しずつ、ロープが下りる。
・・・
現在、3階付近。
俺の握力も限界に近い。
ケンジ「108、大丈夫かー!?」
俺「もう、限界に近い!」
ケンジ「俺たちも限界が近い!ロープを一瞬だけ離して1mくらい下ろして良いか?」
えぇ、それって、めちゃくちゃリスクあるよね!?
俺は、下を見るが、まだ飛べる高さじゃない。
・・・
俺「それは、やめてくれ!俺も少しずつ下りるから、今まで通り下ろしてくれ!」
ケンジ「わかった!」
俺は、ロープから一瞬だけ手の力を緩めた。
すぅーと、30cmくら一気に下りられた。
・・・
現在、2階付近。
手のひらが痛い、恐らく切れている。
腕は、はち切れそうだ。
パチオ「おーい!108、あと3mくらいしかロープが残ってないぞー!」
下を見るとあと5mくらい!?
俺「わかった!残り1mになったら言ってー!」
・・・
パチオ「1mになったぞー!」
俺の手も限界寸前なので、手を離した。
・・・
着地した場所には、ロープがあり、俺はすっ転んだ。
ちょっとだけ、足を捻ったが、無事に生還した。
しばらくして、ケンジとパチオが下りてきた。
俺たち、6つの手のひらは、擦り切れて血が滲んでいた。
・・・
その後の交代ダイブは、中止になったのは、言うまでもない。
・・・
へと続く。