【124話】
俺は自信を失いかけていた。
まるで何か大切なものを握りしめていながら、それがすり抜けていくような感覚だった。
カオリの本当の気持ちを知りたいけれど、聞くのが怖かった。
心の中でその問いがぐるぐると渦巻いて、胸が締め付けられるようだった。
「とりあえず、フォアローゼスで乾杯しよ!」
俺は勢いよく言った。
こんなに気を紛らわすのが目的だとは、彼女には悟られたくなかった。
水と氷を買い忘れたので、ストレート飲みだ。
グラスに注がれた琥珀色の液体を見つめながら、俺は一気にそれを喉に流し込んだ。
むしゃくしゃして、オレはフォアローゼスを一気飲みする。
俺の声は、どこか遠くから響いてくるように感じた。
「あれ!? カラダの中が熱くなってきたぞ!」
口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。
「すごーい! でも、一気飲みして大丈夫?」
カオリの声が少し心配そうに響く。
彼女の優しさに触れるたび、俺の心の中の問いはますます強くなった。
「大丈夫! カオリも一気飲みしてみろよ! カラダが熱くなるぜ!」
酒が回って気が強くなったのか、カオリに対して命令口調になってる気がする。
それでも、彼女は少し微笑んでグラスを持ち上げた。
時間が経つにつれて、俺たちはフォアローゼスを一時間足らずで空にしてしまった。
酔いが回ってきて、心の中の問いがますます大きくなっていく。
「カオリ、おまえろれつが回ってないぞぉ~」
言葉がうまく出てこない俺に、カオリは笑顔で答えた。
「108もへんらぞぉ~」
彼女の笑顔は、ぼやけた視界の中で揺れている。
酔いが回った頭で、俺は目の前がぼやけ、カオリの笑顔がふわふわと漂っているように見えた。
その笑顔は、俺が知りたい答えを隠しているかのようだった。
彼女の心の中を覗き込む勇気がない自分が、ますます情けなく感じる。
「カオリ...」
俺はつぶやいた。
その声は自分でも驚くほどかすれていた。
「どうしたの、108?」
彼女は優しく問いかけた。
その瞬間、俺の心の中の氷が少しだけ溶けた気がした。
「カオリ、俺...」
何かを言おうとしたけれど、言葉が出てこなかった。
彼女の目を見ると、そこには答えを知る勇気が必要だった。
「108、大丈夫だよ」
カオリの声が優しく響いた。
俺は酔った勢いで、心の奥底にしまっていた問いをついに口にしてしまった。
「カオリはまだアイツのこと好きなんだろ!?」
心臓がドキドキと高鳴り、何かが壊れそうな予感がした。
カオリの返事を待つ数秒が、永遠のように感じられた。
しかし、彼女は一拍半ほど置いてから、静かに答えてくれた。
「付き合ってる時は好きだったけど、今は大嫌いだよ。...な~に、もしかして、嫉妬しているの?」
その言葉が耳に届いた瞬間、俺は少しだけホッとしている自分に気づいた。
カオリの言葉は、まるで冷たい水が熱くなった体を冷やしてくれるかのようだった。
「気にしてねーよ! カオリがオレのことを好きなのは知ってるし、オレがカオリのことを好きだってことカオリは知ってるよな?」
「うん! 知ってるよ~カオリと108は両想いだねぇ~」
カオリの言葉は、まるで温かな光が暗闇を照らすように、俺の心の中の不安を吹き飛ばした。
不安がなくなった瞬間、ものスゴくカオリが欲しくなった。
酔いとともに高まる感情の波に身を任せ、俺は勢いまかせにカオリに抱きついた。
二人とも酔っているせいか、いつもより大胆だった。
何だろうこの感覚!?
心と体が深海に吸い込まれるような。
俺もカオリもトランス状態に入っているみたいで。
カオリの体温が伝わってきて、その温もりが俺をさらに熱くさせる。
カオリの髪の香りが鼻をくすぐり、俺の心をさらに揺さぶる。
カオリも同じように感じているのか、俺の背中に回した手が強くなった。
「108、あたし、ずっとあなたのことが好きだった…」
カオリの囁きが耳元に届いた瞬間、俺の胸がドキドキと高鳴り、カオリへの愛情が溢れ出した。
俺はカオリの顔を見つめ、彼女の瞳に映る自分を確認した。
「オレもだよ、カオリ。お前がいなきゃダメなんだ…」
二人の間に流れる時間が止まったかのように感じた。
酔いのせいか、全てがゆっくりと、そして鮮明に見えた。
その瞬間、俺たちはお互いの存在を強く感じ、そして求め合った。
「カオリ…」
「108…」
互いの名前を呼び合い、二人は深いキスを交わした。
酔いが回る中で、二人の心と体が一つになる感覚があった。
まるで、長い間探し求めていたピースがぴったりと嵌るように。
カオリの体温、彼女の笑顔、その全てが俺の心に深く刻まれた。
彼女がそばにいる限り、俺はもう二度と自信を失うことはないだろう。
カオリがそばにいる限り、俺たちはどんな困難も乗り越えられると信じていた。
この日、俺たちはお互いの愛を確かめ合い、そして新たな絆を築いた。
カオリの温もり、その優しさ、その愛情。
そのすべてが俺の心に深く染み込んだ。そして俺は、カオリと一緒にいる限り、もう何も怖くないと思った。
「カオリ、これからもずっと一緒にいような」
「もちろん、108。あなたと一緒なら、どこへでも」
カオリのその一言で、俺たちの未来が明るく照らされたように感じた。
俺は彼女の手をしっかりと握りしめ、これからもずっと、二人で一緒に歩んでいく決意を新たにした。
俺の心は嵐のように揺れ動いていた。
カオリの名前を叫んだその瞬間、深い感情が胸に溢れた。
何故なら、カオリは俺の全てだった。
彼女の笑顔、彼女の声、その全てが俺の世界を彩っていた。
「カオリ!」と叫んだ俺の声は、夜の静寂を切り裂いた。
その声には、抑えきれない感情が込められていた。
「好きだよ! 大好きだよ!! ...シンペイくん」
その瞬間、時間が止まった。
カオリの言葉が俺の耳に届いた時、心臓が一瞬止まったかのような感覚に襲われた。
彼女が俺の名前を呼んだ、その言葉が信じられなかった。
「!? 今、カオリは何て言った?」
耳垢が詰まっているのかと一瞬思ったが、酔った頭で彼女の言葉を繰り返し思い返してみる。
空耳じゃない、確かに「シンペイくん」と言ったのだ。
驚きと混乱が俺を襲い、酔いが急速に冷めていくのを感じた。
「急にどーしたの!?」と問いかけると、カオリは自分の発言に気づいていない様子だった。
その無垢な表情に、俺の心はさらに揺れた。
「ごめん、急に体調が悪くなったからトイレに行ってくる」と言って、俺はその場を離れた。
カオリはまだトランス状態だったが、俺のことを気遣ってくれた。
「大丈夫!? 飲み過ぎちゃったよね。背中さすろうか?」
「大丈夫だから、すぐに戻るから」と言って、俺は浴室に向かった。
湯の温かさが心地よく、カオリの発言を何度も思い返す。
酔いは完全に覚め、頭はクリアになっていた。
確かに彼女は「シンペイくん」と言ったのだ。
浴室の湯船に浸かりながら、俺の心はますます重くなっていった。
彼女の無意識の一言が、俺の心を深く傷つけた。
カオリとの過去の思い出が次々と頭を駆け巡り、その一つ一つが今では痛みとなって感じられた。
湯船から出てベッドに戻ると、カオリは大きなイビキをかいて寝ていた。
その寝顔を見た瞬間、俺の心は一気に冷めた。
彼女が俺の名前を間違えたこと、その事実が俺の心に深い傷を残した。
「もう、カオリとは一緒に居たくない」と心の中で呟いた。
彼女の寝顔は無邪気で、何も知らない子供のようだったが、その無垢さが逆に俺の心を突き刺した。
俺は静かにベッドから離れ、カオリを残してホテルを後にした。
夜風が冷たく、街の明かりがぼんやりと揺れて見えた。
俺の心も同じように揺れていた。
カオリとの思い出が走馬灯のように頭を駆け巡り、涙がこぼれ落ちた。
「さようなら、カオリ」と心の中で呟きながら、俺は一人静かに夜の街を歩き続けた。
カオリのことを忘れるためには、もっと遠くへ行かなければならないと感じた。
彼女のことを想い続ける限り、俺は前に進めないのだから。
歩き続ける中で、俺の心は徐々に冷えていった。
だが、カオリとの日々が消えることはなかった。
彼女の笑顔、その笑い声、共に過ごした瞬間一つ一つが、俺の中に深く刻まれていた。
だからこそ、俺はこれから新たな道を見つけなければならなかった。
自分自身を見つけ、再び立ち上がるために。
カオリとの別れが辛かったが、それは俺にとって必要なステップだった。
自分を再び見つけるための、新たな旅の始まりだった。
カオリを愛し、そしてその愛を手放すことで、俺はもっと強くなれると信じていた。
その夜、ポケベルが何度も鳴り響いた。
しかし、オレはもう二度とそのポケベルを手に取ることはなかった。
それは、オレの心が既に決断を下していたからだ。
カオリからの連絡を永遠に拒絶するという決断を。
数週間が経ったある日、カオリから家に電話があった。
しかし、オレは居留守を使って電話に出なかった。
その行動は、オレの心の中で何かが終わったことを示していた。
オレの恋は、ここで終わったのだ。
はじめての彼女に裏切られ、二人目の彼女にも裏切られた。
オレは女性のことが分からなくなっていた。
大きなショックから、女性不信になりそうになったが、そこでふと思い直した。
「これからは、自分に正直に生きよう!」
そう、それが、高校生から始まるオレのスタイルになった。
もう、女性を信じない。
本能のまま生きていこうと決めた瞬間、オレの心は軽くなったように感じた。
雨が降る夜、オレは一人、窓の外を眺めていた。
雨粒が窓ガラスを滑り落ちる様子は、まるでオレの心の中を流れる感情のようだった。
過ぎ去った恋、裏切り、そして新たな決断。それら全てがオレを今の自分にしていた。
「本能のままに生きる。それが、真の自由だ!」
オレはそう呟いた。
その言葉には、これまでの苦悩や迷いを乗り越えた後の解放感が込められていた。
もう誰かの期待に応えるために生きるのではなく、自分自身のために生きる。
その決意が、オレを新たな未来へと導いていく。
夜空を見上げると、雲間から星がちらりと覗いていた。
その星の光は、まるで俺の心の中にある希望の光のようだった。
今はまだ小さな光かもしれないが、それでも俺はその光を信じて歩き出す。
本能のままに、自分自身の道を切り開いていく。
それが、裏切られた経験から学んだ、俺の人生の新たなスタイルだった。
その夜のことを、オレは鮮明に覚えている。
ポケベルの鳴る音が、まるでオレの心の叫びのように感じられた。
カオリからのメッセージは、きっと何か重要なことを伝えたかったのだろう。
しかし、オレはもう彼女の言葉に耳を傾けるつもりはなかった。
翌朝、目が覚めると、オレの心には一つの確信があった。
カオリとの関係を断ち切ることが、俺にとっての新たなスタートだった。
彼女との思い出は美しいものも多かったが、その裏にある裏切りの痛みが、全てを台無しにしていた。
部活の闇~サッカー部とラグビー部のシメ会の実態
To BE CONTINUED🔜
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