【119話】
夕暮れの街灯が点灯し始めた頃、照明の柔らかな光が漏れるスナックの入り口に、俺と親父が立っていた。
春の風が、彼らの周りを軽やかに舞っている。
スナックの中からは、懐かしいメロディーが聞こえてきて、それが二人を迎え入れるかのようだった。
「108、ウーロンハイで良いか!?」
店の中から、オヤジの声が響く。
それは、冗談を交えた温かな声音だった。
俺は、一瞬たじろぐものの、すぐに心を決めた。
「うん、大丈夫だよ。初めてだけど、楽しみにしてる!」
その声には、未知への期待とわずかな緊張が混じっていた。
親父は、推薦入学が決まった息子に、これまでとは違う絆を感じていた。
飲酒がバレて、一緒に酒を飲むようになってから、二人の関係はより深まっていた。
スナックの中は、暖かい光と賑やかな声で満ちていた。
シン伯父さんが、既にカラオケで盛り上がっている。
親父とシン伯父さんは、俺が大人の仲間入りをするこの日を、どこか誇らしげに見守っていた。
俺は、初めてのウーロンハイを口にした。
冷たくて、ほろ苦い。でも、それがなぜか心地よかった。
親父の隣で、自分も大人になったような気がして、胸がいっぱいになる。
ウーロンハイやウイスキー&ブランデーの飲み方を教わりながら、俺は、親父やシン伯父さんとの会話を楽しんだ。
話は、学校のことから、未来の夢まで、幅広く広がっていった。
そして、カラオケの時間。
酔っぱらって、みんなの前で歌う快感。
俺は、初めての経験に心を躍らせた。
オヤジもシン伯父さんも、俺の歌を聴きながら、満足げに微笑んでいる。
この夜、俺は、自分が大人の仲間入りを果たしたことを深く実感した。
そして、親父との絆が、以前よりもずっと深まったことを感じた。
ウーロンハイ、そしてスナックでの時間は、俺にとって、忘れられない宝物となった。
夜は更け、街の灯りが僅かに残るプレハブの前で、青春の一ページが静かに織りなされようとしていた。
「カンパーイ!」の掛け声と共に、四つのグラスが軽やかに響き合う。
この瞬間、仲間たちの絆は、ビールの泡のように、軽やかでありながらも深いものへと変わっていった。
「仲間と駄弁りながら飲むバドワイザーは美味い!」
その言葉が、空気を一層暖かくする。
しかし、その温もりは、煙草の煙と共に、どこか遠くへと消えていくようだった。
煙草と酒の相性の良さ、それは予想以上に酔いを早める。
酔いがまわり始めた頃、外からはバイクの音が。
まるで、この夜を盛り上げるための序章のよう。
「コンコンコココン! ココココーンココン!」
その変わったリズムのドアノックに、一同は戸惑いながらも、期待を膨らませる。
「ドア開いてるよー!」タケヨシがそう声をかけると、ドアが開き、そこには特大サイズのリーゼントパーマが。
この夜、予期せぬゲストの登場に、空気は一変した。
「見かけない族車があると思ったら、先約かい!?」
その一言に、緊張が走る。
しかし、その緊張はすぐに和らぎ、「こいつ、俺のダチのダイキ。そして、同じクラスの108ちゃんとガンちゃん!」と紹介があると、笑顔が溢れ出した。
ガンちゃんは「ダイキよろしくな! とりあえず駆けつけ三杯な!?」と提案。
その懐の深さに、一同は心を開いた。
「おう! ガンちゃん、108ちゃん、よろしくな~!」と返す声は、もはや旧知の仲のように暖かい。
四人は、それからとことん飲みまくった。
酒が尽きると、タケヨシが母屋から新たな酒を持ってきてくれた。
彼とダイキの中学時代の話は、まるで映画の一場面のようだった。
サッカー部でのコンビプレー、そして退部に至るまでの波乱万丈。
しかし、その過去があるからこそ、今の彼らがある。
ダイキが最近ロカビリーに目覚めたという話は、夜を更に盛り上げた。
「タケヨシも一緒にロカビリーやろうぜ!?」
その一言が、さらに夜を熱くする。
そして、俺らは潰れるまで踊り続けた。
何だろう、この感覚は。こいつらといると、何もかもが楽しく感じる。
まるで、青春の最高の瞬間を、今、ここで体験しているようだ。
「メチャメチャ楽しいし、サイコーじゃん!」
その言葉が、夜空に響き渡る。
この夜、俺らはただの仲間ではなく、生涯忘れられない「友」となったのだ。
それぞれの心の中に、この一夜の記憶が、色褪せることなく刻まれていく。
青春の一ページは、まさに名作のように、俺らの心に永遠に残るだろう。
その日、青春の一ページが、熱く、そして切なくめくられた。
「108ちゃんもサッカー部に入ろうぜ!?」
タケヨシの声は、夏の終わりを惜しむかのように、軽やかでありながらもどこか切ない響きを持っていた。
「おう!そうするわ!?」
俺の返事は、その場のノリで決めたものだが、その瞬間、俺の中には何かが変わり始めていた。
友情という名の酒に酔いしれ、未来への一歩を踏み出す決意が、彼の心を揺さぶったのだ。
俺らは、その夜、タケヨシの家で気の置けない仲間たちと共に過ごし、翌日、ガンちゃんのサンパチで学校へと向かった。
時間はすでに午後、彼らの足取りは重く、しかし確かなものだった。
今日は、サッカー部への入部届を出す最終日。
俺らは、部室へと向かった。
扉を開けると、そこには部員たちの熱気が満ちていた。
「俺たち、サッカー部に入りたいけど、部長はいる!?」
俺の声に、部屋の空気が一瞬で変わった。
「君たちは1年生だよね?」
そこに立っていたのは、二年生のスギヤマだった。
彼の声には、先輩としての威厳と、どこか不安げな響きが混じっている。
「そうすか! スギヤマパイセンよろしくっす!」
ガンちゃんの返事は軽く、しかし彼の中には、これから始まるサッカー部での日々への期待が膨らんでいた。
しかし、そんな軽やかな雰囲気も束の間、校庭に出た彼らの前に、過去の因縁を持つ小柄なヤロー、ナカムラが現れる。
タケヨシとナカムラの間には、見えない緊張が漂っていた。
過去の傷が、まだ癒えていないことを物語っていた。
「もう、おまえの傷は治ったの!?」
ナカムラの言葉は、鋭いナイフのように空気を切り裂いた。
「前の話じゃんか!? ダイスケちゃん。高校では仲良くよろーよ!」
タケヨシの返事は強がりで、しかしその声には震えがあった。
その時、部長の声が彼らを現実に引き戻す。
「おーい! みんな集合な!」
青春の一コマは、このようにして始まった。
互いに誤解と不安を抱えながらも、俺らはサッカーという共通の目標のもとに集まった。
これから俺らを待ち受ける試練と喜び、そして成長の物語が、今、幕を開けようとしていた。
サッカー部という新しい世界で、俺は何を見つけ、何を学び、そして何を超えるのか。
To BE CONTINUED🔜