108 Blog

If you can dream it, you can do it.

クワタから漂う哀愁の意味

【65話】

 

クワタは、どこか大人の雰囲気を持っている。

 

彼を纏うオーラというか、どこか哀愁を感じる。

 

・・・

 

 

5月のバス遠足。

 

クワタと隣り合わせの座席だ。

 

バスが走り出し、15分くらいが経った。

 

バスガイド「そろそろ、カラオケを歌いましょう!」

 

バス内がざわつく。

 

入学して1カ月足らずで、カラオケを披露するのは、ハードルが高い。

 

バスガイド「歌いたい人いますか?」

 

シーン。

 

・・・

 

バスガイド「それでは、私が歌います!」

 

バスガイドは、何を歌うのかな?

 

~♪

 

このイントロは、俺のおやじが良く歌う。

 

吉幾三の『俺ら東京さ行くだ』だ!

 

これって、20歳くらいの女性が歌う歌なのか!?

 

車内が、いろいろな意味でどよめく。

 

~♪

 

バスガイド「〇〇中学校は、田舎なので、この歌を送ります!」

 

このガイドさん、何を言ってるんだ!?

 

俺たちのことをディスってるのか?

 

「はぁ~ テレビも無え ラジオも無え 車もそれほど走って無え~♪」

 

シーン。

 

完全に外した。

 

ガイドさんの顔が赤い。

 

きっと、凄い重圧の中で、歌ってるんだろうな。

 

少しだけ、同情する。

 

そして、長い1曲が終わった。

 

シーンと車内が静まり返る。

 

・・・

 

「ぱちぱち」

 

隣のクワタだけが、拍手をしている。

 

そして、まばらながらも、クワタにつられて、拍手が鳴る。

 

「パチパチパチパチ」

 

ガイドさんは、少し、ほっとした表情になる。

 

・・・

 

クワタは、間髪入れず「すみませーん!俺も歌って良いですか?」

 

俺は、クワタに拍手をしたい!

 

バスガイド「曲は、何にしますか?」

 

クワタ「ワインレッドの心でお願いします!」

 

またもや、車内はざわめく。

 

12歳がクラスメイトに聴かす歌じゃない!?

 

~♪

 

「もっと勝手に恋したり もっとkissを楽しんだり 忘れそうな思い出を そっと抱いているより 忘れてしまえば・・・」

 

クワタも外したのであった。

 

・・・

 

俺は、そんなクワタが好きだった。

 

・・・

 

 

マックにて。

 

クワタ「俺のおやじは、俺が小3の時に蒸発した。それからは、母、弟、妹の3人でぼろアパートで暮らすようになった。母は、俺たちを育てるために寝る間も惜しんで働いていた。弟は3歳下で妹は5歳下だったので、弟たちは、お祖母ちゃんと一緒に暮らすことになった。俺は、もうすぐ4年生だったので、学校が終わったら、家事を手伝った。家が貧乏だったこともあり、学校ではよく虐められた。それでも、いつか弟たちと一緒に暮らしたかったので、内職の仕事も頑張っていた!」

 

・・・

 

俺「弟たちとは、会えてるの?」

 

クワタ「お祖母ちゃん家は、青森県だから、1年に1回くらいしか会えないよ」

 

・・・

 

「俺が6年生になった時、母が倒れて長期入院することになって。今の施設で暮らすことになったんだ」

 

俺「お母さんは、どこに入院してるの?」

 

「〇〇市だよ。だから、週1でお見舞いに行ってるんだ!」

 

俺「〇〇市って、ちょっと遠いよね?」

 

クワタ「うん。自転車で往復4時間くらいかな」

 

マジで!?

 

クワタから漂う哀愁が、少し分かった気がした。

 

・・・

 

 

 

1年最強が決まる

へと続く。

 

 

1話からみる