クワタから漂う哀愁の意味
【65話】
クワタは、どこか大人の雰囲気を持っている。
彼を纏うオーラというか、どこか哀愁を感じる。
・・・
5月のバス遠足。
クワタと隣り合わせの座席だ。
バスが走り出し、15分くらいが経った。
バスガイド「そろそろ、カラオケを歌いましょう!」
バス内がざわつく。
入学して1カ月足らずで、カラオケを披露するのは、ハードルが高い。
バスガイド「歌いたい人いますか?」
シーン。
・・・
バスガイド「それでは、私が歌います!」
バスガイドは、何を歌うのかな?
~♪
このイントロは、俺のおやじが良く歌う。
吉幾三の『俺ら東京さ行くだ』だ!
これって、20歳くらいの女性が歌う歌なのか!?
車内が、いろいろな意味でどよめく。
~♪
バスガイド「〇〇中学校は、田舎なので、この歌を送ります!」
このガイドさん、何を言ってるんだ!?
俺たちのことをディスってるのか?
「はぁ~ テレビも無え ラジオも無え 車もそれほど走って無え~♪」
シーン。
完全に外した。
ガイドさんの顔が赤い。
きっと、凄い重圧の中で、歌ってるんだろうな。
少しだけ、同情する。
そして、長い1曲が終わった。
シーンと車内が静まり返る。
・・・
「ぱちぱち」
隣のクワタだけが、拍手をしている。
そして、まばらながらも、クワタにつられて、拍手が鳴る。
「パチパチパチパチ」
ガイドさんは、少し、ほっとした表情になる。
・・・
クワタは、間髪入れず「すみませーん!俺も歌って良いですか?」
俺は、クワタに拍手をしたい!
バスガイド「曲は、何にしますか?」
クワタ「ワインレッドの心でお願いします!」
またもや、車内はざわめく。
12歳がクラスメイトに聴かす歌じゃない!?
~♪
「もっと勝手に恋したり もっとkissを楽しんだり 忘れそうな思い出を そっと抱いているより 忘れてしまえば・・・」
クワタも外したのであった。
・・・
俺は、そんなクワタが好きだった。
・・・
マックにて。
クワタ「俺のおやじは、俺が小3の時に蒸発した。それからは、母、弟、妹の3人でぼろアパートで暮らすようになった。母は、俺たちを育てるために寝る間も惜しんで働いていた。弟は3歳下で妹は5歳下だったので、弟たちは、お祖母ちゃんと一緒に暮らすことになった。俺は、もうすぐ4年生だったので、学校が終わったら、家事を手伝った。家が貧乏だったこともあり、学校ではよく虐められた。それでも、いつか弟たちと一緒に暮らしたかったので、内職の仕事も頑張っていた!」
・・・
俺「弟たちとは、会えてるの?」
クワタ「お祖母ちゃん家は、青森県だから、1年に1回くらいしか会えないよ」
・・・
「俺が6年生になった時、母が倒れて長期入院することになって。今の施設で暮らすことになったんだ」
俺「お母さんは、どこに入院してるの?」
「〇〇市だよ。だから、週1でお見舞いに行ってるんだ!」
俺「〇〇市って、ちょっと遠いよね?」
クワタ「うん。自転車で往復4時間くらいかな」
マジで!?
クワタから漂う哀愁が、少し分かった気がした。
・・・
へと続く。