サッカーと涙の卒業式~松山先生からの手紙
【55話】
「ユ、ユウコちゃん。何でここに!?」
俺は驚きで声が震えた。
ユウコは少し息を切らしながら答えた。
「大勢の男子が公園に入るところを見ていたら、108君が見えて。そしたら、108君が囲まれて。私、先生を呼びに学校に戻ったの」
俺はその言葉を聞いて、胸が熱くなった。
「そうだったのか、おかげで助かったよ。ありがとう!」
俺たちは、久しぶりに『禁断のベンチ』でいろいろなことを話した。
あのベンチは、学校の裏手にひっそりと佇む場所で、誰にも邪魔されない秘密の場所だ。
「トモオ君のこと、覚えてる?」
俺は尋ねた。
ユウコは微笑んで頷いた。
「もちろん。トモオ君、膝の怪我が原因でサッカーを辞めたんだよね」
「そうなんだ。彼がサッカーを辞めてから、俺も何かが変わった気がする。最近は映画とカラオケにはまってるんだ」
ユウコは興味津々に聞いてくれた。
「どんな映画が好きなの?」
「アクション映画が多いかな。でも、君には言えなかったけど、実はロマンス映画も好きなんだ」
ユウコは驚いた顔をして笑った。
「それは意外! 今度一緒に見に行こうよ」
こんなに自分のことを話したのは、ユウコちゃんがはじめてだった。
彼女と話していると、自然と心が軽くなっていくのを感じた。
「夕日がとてもキレイですね!」
ユウコが言った。
「キレイだね!」
俺は彼女の言葉に同意した。
いつの間にか、日が傾き始めてた。
二人が並んだベンチで、夕日を眺めていたら、心の荷が下りて、気持ちが楽になっていた。
その後、ちょっかいを出して来るやつはいなかった。
ユウコちゃんが、呼んだのは、松山先生だったことが要因だろう。
松山先生は学校で一番怖いと噂される先生で、その存在感だけで問題を解決してしまう力があった。
俺は、間接的に松山先生に救ってもらった。
しかし、それ以上に、ユウコちゃんの勇気と優しさに救われたのだ。
夕日が完全に沈むまで、俺たちは並んで話し続けた。
その時間が、どれほど大切で貴重なものかを感じながら。
新しい一歩を踏み出す勇気をもらったのは、確かにユウコちゃんのおかげだった。
そして、明日もまた、この場所で会える。
それだけで、俺の心は希望で満たされた。
卒業式が終わり、晴れやかな校庭には笑顔と涙が交錯していた。
女子たちは友達同士で写真を撮り合い、思い出を刻んでいた。
母「記念写真を撮ろう!」
俺「恥ずかしいから、いいよ」
母「すみません。写真を撮ってもらえます?」
母はとても明るく、天然な性格で、いつもマイペースだ。
母「おまえは、友達と写真は撮らないの?」
友達、いないし。
「別に撮らなくていい」
その時、校庭の一角で声が響いた。
マー坊「サッカー部の人、集まってください! 記念写真を撮りますよ」
俺は県大会以降、サッカー部に参加していなかったが、退部はしていなかった。
母「呼んでるよ。行っておいで!」
断る理由もない。
俺はゆっくりとサッカー部の仲間たちの元へ歩み寄った。
6年生のサッカー部員は20人。
そこに校長先生と松山先生が入ってきた。
「はい、ポーズ。カシャ!」
記念撮影が終わり、松山先生から一人一人へ手紙が渡された。
俺の番になり、手紙を受け取る。
松山先生「108、おまえには可能性がある! 中学生になっても、サッカーを続けろよ!」
俺は小さくうなずき、松山先生と握手をした。
実は、俺はサッカーをやめようとしていた。しかし、松山先生から手紙を受け取り、その気持ちは変わった。
『松山先生からの手紙』
108を初めて見たとき、2年後にはチームの主役として活躍している未来が見えた。
だからこそ、練習をサボってばかりのおまえが残念で仕方なかった。
6年生になり、真面目に練習に参加するようになった時、俺は嬉しかった。
地区大会に間に合ったと思った。
しかし、おまえはまた練習をサボりだした。
俺は腹が立った。そして、おまえに喝を入れた。
もう戻って来ないと諦めたが、おまえは戻って来た。
そして、努力の結果、自分の力でレギュラー組に入った。
俺はそんなおまえを誇りに思う。
膝は癖になるから、しっかり治すこと。
中学校では、サッカーを続けてもらいたい。
俺は松山先生のことを誤解していた。
血も涙もない鬼教師だと思っていた。
しかし、その手紙を読んで、俺の心は変わった。
中学生になっても、サッカーを続けよう。
そう、心に誓った。
松山先生、短い間でしたが、本当にありがとうございました!!
校庭の隅で、俺は静かに涙を流した。
母がその背中を優しくさすりながら言った。
母「おまえは、立派に成長したね」
俺は母の言葉に、ただうなずくしかなかった。
これからも、自分の道をしっかりと歩んでいこう。
そう決意した卒業式だった。
へと続く。