108 Blog

If you can dream it, you can do it.

サッカーと涙の卒業式~松山先生からの手紙

【55話】

 

「ユ、ユウコちゃん。何でここに!?」

 

 俺は驚きで声が震えた。

 

 ユウコは少し息を切らしながら答えた。

 

「大勢の男子が公園に入るところを見ていたら、108君が見えて。そしたら、108君が囲まれて。私、先生を呼びに学校に戻ったの」

 

 俺はその言葉を聞いて、胸が熱くなった。

 

「そうだったのか、おかげで助かったよ。ありがとう!」

 

 

 俺たちは、久しぶりに『禁断のベンチ』でいろいろなことを話した。

 

 あのベンチは、学校の裏手にひっそりと佇む場所で、誰にも邪魔されない秘密の場所だ。

 

「トモオ君のこと、覚えてる?」

 

 俺は尋ねた。

 

 ユウコは微笑んで頷いた。

 

「もちろん。トモオ君、膝の怪我が原因でサッカーを辞めたんだよね」

 

「そうなんだ。彼がサッカーを辞めてから、俺も何かが変わった気がする。最近は映画とカラオケにはまってるんだ」

 

 ユウコは興味津々に聞いてくれた。

 

「どんな映画が好きなの?」

 

「アクション映画が多いかな。でも、君には言えなかったけど、実はロマンス映画も好きなんだ」

 

 ユウコは驚いた顔をして笑った。

 

「それは意外! 今度一緒に見に行こうよ」

 

 

 こんなに自分のことを話したのは、ユウコちゃんがはじめてだった。

 

 彼女と話していると、自然と心が軽くなっていくのを感じた。

 

「夕日がとてもキレイですね!」

 

 ユウコが言った。

 

「キレイだね!」

 

 俺は彼女の言葉に同意した。

 

 いつの間にか、日が傾き始めてた。

 

 二人が並んだベンチで、夕日を眺めていたら、心の荷が下りて、気持ちが楽になっていた。

 

 

 その後、ちょっかいを出して来るやつはいなかった。

 

 ユウコちゃんが、呼んだのは、松山先生だったことが要因だろう。

 

 松山先生は学校で一番怖いと噂される先生で、その存在感だけで問題を解決してしまう力があった。

 

 俺は、間接的に松山先生に救ってもらった。

 

 しかし、それ以上に、ユウコちゃんの勇気と優しさに救われたのだ。

 

 

 夕日が完全に沈むまで、俺たちは並んで話し続けた。

 

 その時間が、どれほど大切で貴重なものかを感じながら。

 

 新しい一歩を踏み出す勇気をもらったのは、確かにユウコちゃんのおかげだった。

 

 そして、明日もまた、この場所で会える。

 

 それだけで、俺の心は希望で満たされた。

 

 

 卒業式が終わり、晴れやかな校庭には笑顔と涙が交錯していた。

 

 女子たちは友達同士で写真を撮り合い、思い出を刻んでいた。


 

 母「記念写真を撮ろう!」

 

 俺「恥ずかしいから、いいよ」

 

 母「すみません。写真を撮ってもらえます?」

 

 母はとても明るく、天然な性格で、いつもマイペースだ。


 

 母「おまえは、友達と写真は撮らないの?」

 

 友達、いないし。

 

「別に撮らなくていい」


 

 その時、校庭の一角で声が響いた。

 

 マー坊「サッカー部の人、集まってください! 記念写真を撮りますよ」

 

 俺は県大会以降、サッカー部に参加していなかったが、退部はしていなかった。

 

 母「呼んでるよ。行っておいで!」

 

 断る理由もない。

 

 俺はゆっくりとサッカー部の仲間たちの元へ歩み寄った。

 


 6年生のサッカー部員は20人。

 

 そこに校長先生と松山先生が入ってきた。

 

「はい、ポーズ。カシャ!」

 

 記念撮影が終わり、松山先生から一人一人へ手紙が渡された。

 

 俺の番になり、手紙を受け取る。

 

 松山先生「108、おまえには可能性がある! 中学生になっても、サッカーを続けろよ!」

 

 俺は小さくうなずき、松山先生と握手をした。

 


 実は、俺はサッカーをやめようとしていた。しかし、松山先生から手紙を受け取り、その気持ちは変わった。

 

 


『松山先生からの手紙』


 

 108を初めて見たとき、2年後にはチームの主役として活躍している未来が見えた。

 

 だからこそ、練習をサボってばかりのおまえが残念で仕方なかった。

 

 6年生になり、真面目に練習に参加するようになった時、俺は嬉しかった。

 

 地区大会に間に合ったと思った。

 

 しかし、おまえはまた練習をサボりだした。

 

 俺は腹が立った。そして、おまえに喝を入れた。

 

 もう戻って来ないと諦めたが、おまえは戻って来た。

 

 そして、努力の結果、自分の力でレギュラー組に入った。

 

 俺はそんなおまえを誇りに思う。

 

 膝は癖になるから、しっかり治すこと。

 

 中学校では、サッカーを続けてもらいたい。


 

 

 俺は松山先生のことを誤解していた。

 

 血も涙もない鬼教師だと思っていた。

 

 しかし、その手紙を読んで、俺の心は変わった。

 


 中学生になっても、サッカーを続けよう。

 

 そう、心に誓った。


 

 松山先生、短い間でしたが、本当にありがとうございました!!


 

 校庭の隅で、俺は静かに涙を流した。

 

 母がその背中を優しくさすりながら言った。

 

 母「おまえは、立派に成長したね」

 

 俺は母の言葉に、ただうなずくしかなかった。

 

 これからも、自分の道をしっかりと歩んでいこう。

 

 そう決意した卒業式だった。

 

 

 

中学校の門前~待ち受けていたのは

へと続く。

 

 

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