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If you can dream it, you can do it.

勇気の一文と走り高跳び

【第38話】

 

 教室の隅、静かな午後。

 

 太陽の光が、古い木の机を温かく照らしている。

 

 その中で、ひときわ目立つ一枚の紙。

 

 純白の封筒、心を込めて書かれた文字。

 

 それは、一人の少女の純粋な心からのメッセージだった。

 

「好きです。ずっと前から...」

 

 この一文には、彼女の全ての勇気が詰まっていた。

 

 しかし、受け取った俺は、その重みにどう応えていいかわからなかった。

 

 言葉を失い、時間だけが過ぎていった。

 

 

 そして、5年生の新たな始まり。

 

 学校生活は一変し、行事が目白押しになる。

 

 その中でも特に注目されるのが、地域のスポーツ祭。

 

 この大会は、県内の様々な学校が競い合う場であり、各学校の代表選手が集まる。

 

 俺の学校では、スポーツテストの結果に基づいて代表選手が選ばれた。

 

 そして、跳躍力が5年生で1位だった俺は、走り高跳びの候補生として選ばれたのだ。

 

 子供の頃からの憧れ、ジャッキーチェン。

 

 彼の映画を見ては、バク転や側宙、シャドーカンフーに挑戦していた。

 

 その過程で、自然と跳躍力が身についていったと思う。

 

 大会までの練習は厳しかった。

 

 しかし、その甲斐あって、俺は3人の候補生の中から、見事に当校の代表として選ばれたのだ!

 

「君が選ばれると思ってたよ」

 

 クラスメートの一人が言った。

 

「ありがとう。でも、本当にやれるかな?」

 

 不安を隠せない俺に、友達は笑って応えた。

 

「大丈夫だよ、君なら」

 

 その言葉が、俺に勇気をくれた。

 

 そして、忘れかけていたあの日の純白の封筒。

 

 あの時は返事を返せなかったけれど、この大会を通じて、何かを伝えられたらと思い始めた。

 

 

 大会日当日。

 

 朝の空気がピリッと張り詰める中、俺はいつものように家を出た。

 

 今日はただの日ではない。

 

 俺たちの学校が開催地となる走り高跳びの大会があるのだ。

 

 学校に着くと、もう他校の代表たちが集まっていた。

 

 胸がドキドキし、わくわくする感覚が止まらない。

 

 会場には6年生の代表が多く、俺よりも体格の大きな選手が何人もいる。

 

 男子の会場と女子の会場は隣り合わせで、隣の女子たちは何故かいつもより可愛く見えた。

 

 しかし、そんなことに気を取られている場合ではない。

 

「集中しろ、俺!」

 

 自分に言い聞かせる。

 

 走り高跳びは最大3回挑戦できるルール。

 

 3回連続で失敗すると失格となる。

 

 最初のバーの高さは110cmから始まり、123cmに到達した時点で残り3人、125cmで2人になった。

 

 そして、俺は最後の2人まで残ったのだ。

 

 俺のライバルは、私よりも5cm以上身長が高い。

 

 普段は大きい人を見ても何とも思わないが、今日はそのわずかな差が大きく感じられた。

 

 彼の飛び方は「ベリーロール」、俺は「はさみ飛び」だ。

 

 俺の練環時の最高記録は123cmだったが、既にそれを2cm更新している。

 

 そして、バーが127cmに設定された。

 

 2cm上がっただけなのに、バーはとてつもなく高く見えた。

 

「これ、無理かも…」

 

 俺の1回目の挑戦は失敗。

 

 ベリ男も1回目は失敗した。

 

 俺の2回目も失敗。

 

 しかし、ベリ男は2回目にして成功させた。

 

 俺の3回目、全力を出し切るものの、やはりバーを越えることはできなかった。

 

 初めての大会は、俺にとって2位という結果に終わった。

 

 しかし、この経験が俺の中で何かを変えた。

 

 もし来年も選ばれたら、俺もベリーロールに挑戦しようと心に誓った。

 

 この日から、俺の中でスポーツに対する情熱が更に強く燃え上がり、次の大会に向けての練習が始まった。

 

 失敗を恐れずに挑戦し続ける勇気、そして何よりも自分自身を信じる力。

 

 それが俺がこの大会から得た最大の宝物だった。

 

 

 

五月の青空と暗雲の教室任

へと続く。

 

 

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